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暗渠排水

強い雨が降ると作業場の前は水浸し。屋根はかかっているのだけれども、あたりからじわじわと流れ込んでくる。応急的に溝を掘って対処していたが数日経てばそれもすぐに埋まってしまって、また雨が降れば同じことの繰り返し。重い腰を上げる。いらなくなったレンガや瓦を大ハンマーでひたすら細かく砕いて、深さ10センチ弱の溝を掘り、そこに埋めて上に土をかぶせる。効果の程はどうか。雨が楽しみだ。

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杉のつかい方

 身近にある杉を多用して家をつくっていると、ややもすると「これでもか」といった感じで見た目うるさくなったりもするので白身赤身、節あり節なし、目粗目積など、木取りによっていろいろと使い分けたりと工夫が必要だなと感じます。杉のキッチンですが、柾目使いで戸板をつくりました。台所は特に汚れやすい場所なので、気にする方は多いのですが、いつもこういっています。「無垢の木なのでもちろんシミができ、傷がつき、変色します。しかしそんなつまらないことなんか気にせず、大らかにつかってください」

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 生活の足跡の残らない家や家具に魅力はありません。日系家具デザイナーのジョージ=ナカシマの写真集にこんな言葉がありました。「家具は生活と密着していなければならないから、必要以上に高価なものとして扱われるべきではない。必ずできる傷やくぼみは、家具としての味わいを深める。・・・私にとっては、家具が一度も使われたことがないように、その表面が輝いてすべすべしているものほど、魅力のないものはない。」


生業としての大工

 好きでなった大工だが、それが仕事となるとやはりそれなりにプレッシャーもかかり、単純に「木を触っていれば幸せ」とはならない。大工を生業としている以上、日々の糧を得るためには当然のことながら金勘定も避けては通れない訳で、「いかに金を稼ぐか」というビジネスの世界に馴染めず早々に第二の人生を歩きはじめた私にとって、これはある意味予想以上に大きな落とし穴だった。家には育ち盛りの坊主がふたり、たまにはごちそうも食わしてやらねばならない。このあたりのバランスはなかなか難しく、10年経ってやっとそれなりのところに落ち着いてきた。「それなり」であって「そこそこ」ではないところがみそ。いくら稼げば良しとするのか、常々自問自答しているがこたえは出ない。全国のサラリーマンの平均賃金か?それとも同じ年の市役所職員の年収か?どちらにしても望むべくもない話で、やりたくもないことのために「時間を金では売らない」と、ひとり強がってみるのが精一杯だ。
 しかし、そもそも商売と生業はちがう。商売は利益を得ることを目的とする商いのことで、そこに限度はない。生業とは日々の糧を得るための生産業のことで「食べられるだけ」あれば良いとする一線がある。「職人=手先の技術によってものを製作することを職業とする人」は自らが一日で生産できる限度をわきまえているし、それ故1年で稼げる金銭的限界も嫌というほど自覚している。金銭上の利害に鋭敏な性質をさす「商売気質」と、頑固だが実直であるという「職人気質」とは相容れないもの。職人にとって「商売上手」ということばは決して褒め言葉ではないし、商売の才に長けた職人というのは明らかに言語矛盾だ。いずれにせよ会社勤めを辞めて職人になった時点で、私の中で金儲けは大きな目的からは外れた訳で、食うに困らぬ程度に「それなり」に落ち着いてきたのであれば、分不相応な「商売気」が内にわきおこってきてもそれは自分でなだめるしかないのだろう。
 むらむらと「商売気」が出てくるのは仕事がうまく回っていないとき。建て主との関係がうまくいっている時はそれこそ「職人」に徹することができる。場合によっては持ち出しで仕事もするし何日余分にかかろうが得心のゆくまで手間をかける。結果的に商売上は決してほめられたことにはならないのだが。
 先日、古い家の改修仕事を終えて竣工祝いに招かれた。築80年の家を4ヶ月かけて全面改装したのだが、丁寧にお礼のことばをいただいた。人との信頼関係はお金で買うことはできない。短い人生、こうして出会えたことに素直に感謝したい。

 次の仕事のために、ちょうど切らした鉛筆を買いに行く。耳にはさんで現場で使うのだが、安物はちょっと地面に落とすとすぐに芯が折れてしまう。削っても削っても中で折れていることも多い。安物買の銭失いに気づき、良いものを買うようにしている。1本あたり132円。へたなペンより高い。気持ちよく仕事をするための少しの贅沢。

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お茶飲み話

 現場はいよいよ大詰め。大工だけで黙々と作業を進めていた冬は終わり、春は今、各職方が競うように作業を進めている。違う業種の職人たちが同じ現場に集い、10時と3時の休憩でお茶を飲みながらかわす話は楽しい。たわいもないお茶飲み話だが、話の所々できらりと光る職人たちのことばは聞き逃せない。左官、タイル、建具、電気、水道、ガス等、すべての工事は密接につながっていて、連携を良くとらないと家づくりはまとまらないのだが、実際に皆が顔をそろえることは実は意外と少ないし、まして口数の少ない職人たちの本音を耳にする機会はなかなかない。引き渡しに向けて気持ちは焦るが、こうした一件無駄に見える時間が確実に後々プラスになる。
 単価の低い手間請けの現場では自分のことで手一杯で、他の職方のことを考えて仕事をする余裕はないという話を良く聞くが、それでは決していい仕事にはならないだろうし、楽しくもないだろう。仕事がない時期に手間請け仕事をいくつかやったことがあるが、知らず知らずのうちに与えられた仕事を早く済ますことだけを考えている自分に気づき、以来、「仕事はなくてもできるだけ手間請け仕事はしない」というやせ我慢を心に決めた。

 現場に建具が入り照明がつくと、がらんどうだった家は息を吹き込まれたかのように生き生きとしてくる。少しずつ住まい手の生活雑貨も運ばれて、これからの生活が徐々に想像できるようになり、大工としても素直に嬉しい。引き渡しまで残りわずか。大工は家で家具づくりです。

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