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労々交換

数年前に作ってもらった革製の雪駄を愛用している。先だって、鼻緒が切れたので直してもらった。外で材を加工し、中で取り付けるという作業を繰り返す場合、靴は不便なので雪駄は欠かせない。鼻緒のない草履は踏ん張りが利かないので、私の場合はNG。市販の雪駄も数多くあるけれど、これまで満足の行くものには当たったことがない。そもそも普段使いを前提としていないのだろう。数日経つと鼻緒が伸び、そして数ヶ月で千切れる。修理できるように作られていないのでそのままゴミ箱行きとなる。結局、長い間ビーチサンダルをずっと履いていた。少し高いものを選べば、1年間は履けた。ただ、仕事をする格好に見られない難点があった。

皮職人さんとは数年前に知り合い、それから彼らは広島市内にほど近い場所の古民家を買った。以来、そのセルフ改修工事のお手伝いをしている。その代わりに作ってもらったのが皮の雪駄だった。きちんと足型を取ってもらい、修理しながらずっと使い続けることを前提に作ってもらった。金銭には換算しないこうした関係はなんとも言えない安心感をもたらしてくれる。「金の切れ目が縁の切れ目」ではない関係性をどれくらい持っているのだろう。

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木で出来ることは木でやりたい。

「木の家ネット」の取材を受けました。→記事

使い分け

釘とビスの話の続きです。

下地材に板を止め付ける場合、後に離れないようにする点でビスは釘に勝りますが、釘にも利点はあります。最初玄翁は釘の頭だけを叩きますが、釘の頭が板に近づいてくると、板も一緒に叩くようになります。そうすることで下地材と板の間にあった隙間を無くしながら打つことができます。板に反りがあった場合など、ビスの頭だけで押さえながら隙間をなくして密着させるのが難しい場合があり、釘を使う方が良い場合もある訳です。玄能で叩けば板に跡がつきますが、下地であれば問題なし。化粧の場合は、最後玄能をひっくり返して丸みのある方を使えば、板に傷がつくことはありません。コンプレッサーを使った釘打ち機はといえば、早くて連続して何本も打てて早いのですが、機械の細い頭で一発で打ち込むので、頭だけでしか押さえ込めない点で、ビスと同じく、手打ちに劣ります。ビスや釘打ち機を使う場合は、予め板と下地材を密着させておくことが前提になります。

(厚さ33ミリの下地板を90ミリの長さのくぎで止める。玄翁で手打ち。一本では抑えきれなかったので2本打ち)
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あとは施工性の問題。だんだんと重たい道具を引きずりながら仕事をするのが億劫になってきました。ビスを打つインパクトドライバーは1.4kg、鉄砲は大きい物だと2.6kgそれにコンプレッサーから伸びるホースがくっつくわけで、仕事中ずっとそれを携えておかなくてはならないけれど、手打ちの釘の場合は釘も玄能も腰袋に入れておけば両手は空で動けます。現場では当然早さも求められますが、一概に機械を使った方が早いとも言い切れません。思うように仕事が前に進まない若い衆を前に、何度かこんなことを言ったことがあります。「鋸を引いたり、玄能を振ったりする時間なんて高が知れている。その間の時間の長短で仕事の速さは決まる」 これがもし正しいとすれば、インパクトドライバーや鉄砲を手に取る時間の方が勿体無いという訳です。重たい機械を引きずり回して疲れるよりは、釘を千本手で打った疲れの方を取りたいと思ったりもします。 しかし場面場面で、早さ第一という場合やはり鉄砲は便利です。特に雨が怖い屋根仕事で、鉄砲は抜群の威力を発揮してくれます。

大工は木と木の間に隙間が開くことを極端に嫌います。特に造作仕事においては、どれだけ胴つきがついているかが、大工の腕の見せ所(一般的にはそうなってます)。口が開いた(隙間が空くこと)ような仕事をすれば手の悪い大工、下手くそ大工、場合によっては簡単に手抜き大工のレッテルを貼られてしまいます。見栄えが大事な化粧枠の仕事、特に和室の造作にビスは欠かせない。しかし、建築史家の村松貞次郎氏によれば、どうやら江戸時代まで日本は「無ネジ文化」だったらしい。とすれば、栓や楔、木の組手と最小限の釘だけで、昔の大工はそれをこなしていたわけです。江戸時代に戻る必要はありませんが、最小限の手道具と釘だけで作られた古い民家の改修に関わって先人の大工たちの仕事ぶりを目にすると、色々と考えさせられます。

最後に、解体時の問題。現時点で改修工事として請け負う家は築20年以上経たものが多く、それらの住宅にまだそれほどビスは使われていません。腰袋に玄翁とバールでほぼ解体が可能です。これが昨今のようにビスが主体だったらと思うとぞっとします。年数を経たビスはインパクトドライバーで逆回転させて抜こうにも、軸が錆びてもろくなっていて、折れてしまうことが多い。木の中で折れてしまったビスはもうほとんど抜くことは不可能です。解体すること、後に手直しすることを考えれば、ビスの使用は最低限に抑えたいと思いに至ります。

後から直す時のことを考えてつくる。直しやすいようにつくる。新築工事のなかった10年間で、そう考えるようになりました。つくった過程が見えるようにつくる。こわしやすいようにつくる。まずはこわす時の大敵、ボンドは使わないことから始まり、見えるところに脳天からの釘打ちを厭わなくなり、そして現在、ビスを減らしてゆこうという流れは、自分にとって自然な流れのように思っています。

釘は曲がる、ビスは折れる。

簡単な実験をひとつ。同じ長さの釘とビスをそれぞれ万力に固定して、ペンチで曲げると、、、釘は加える力に比例するようにゆっくりと曲がってゆき、ビスは最初はなかなか曲がろうとしませんが、力を加えてゆくと突然ポキッっと折れます。さっくり言えば、釘は柔らかくて粘る。ビスは硬くて脆い。それぞれ一長一短、初期剛性ではビスが勝るが、曲がりながら抜けながらも最後まである程度頑張ってくれるのが釘。そんなイメージです。

この関係は筋交いと貫の関係によく似ています。両方とも地震力(横からの力)に対して、倒れまいとする部材ですが、梁と柱の間に入った斜め材である筋交いは、横からの力が加わると瞬時に抵抗しはじめて変形しないように頑張ります。が、ある一定以上の力が加わると、突然ボキッと折れて倒壊に至ります。それに対して貫は柱に対して横に挿してある数段の板材、柱に対しては楔で両側から止めてあります。横からの力が加わると、少しずつ柱は傾きはじめて、どんどん変形は進みますが、相当程度まで倒壊しません。

自身が土壁プラス貫の構造を選択するのであれば、ある程度の変形を許容して頑張ってくれる釘の方が相性が良いんじゃないか。そんなところからも私の釘への回帰がはじまったわけです。

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釘とビス

めっきり釘を打つ機会が減りました。今、木造建築の現場では、ビス(ネジ釘)が釘に取って代わったわけです。12ミリ、15ミリといった薄い板や合板を広い壁などに大量に止め付ける場合には、大量の本数が必要になるために今でも釘は使います。が、そのほとんどはコンプレッサーを使った鉄砲打ちです。腰につけた釘袋から釘を取り出して玄翁で打つ場面が、今どのくらい残っているでしょう?

見習いの頃は、垂木や間柱、筋交いなども75ミリや、90ミリの釘で止めていましたし、天井板や壁板も小さな釘で止めていたように思います。90ミリの長い釘を打つ場合と、25ミリの短い釘を打つ場合では玄翁も使い分けていましたし、下向きに打つばかりでなく、壁なら横向きに、天井なら上向きに玄翁を振らなければならなりません。狭い場所では無理な体勢で釘を打つ場合も多々ありました。その頃すでに鉄砲の釘打ち機はありましたが、それでもいつも機械を使うわけではなく、手打ちの方が多かったような印象があります。
私の親方は、電動工具も人一倍早く取り入れていた方だと思いますが、それでも釘を手で打つことが普通だったのです。20年以上前は。

ビスにはネジが切ってあるため、木と木をくっつけた場合、釘と違って浮き上がる心配がほとんどありません。釘で浮き上がらないように止めるにはそれなりの工夫が必要ですが、ビスを使えば、(インパクトドライバという高価な道具が必要ですが)簡単にその懸念が解消されるということで、大工にとって必要不可欠なものになった訳です。釘からビスへという流れは強力で、思考が停止してしまうと無条件にビスを使う方が良い仕事だと思い込んでしまってもおかしくはありません。

しかし、ふと立ち止まって考えると、ビス一辺倒も良くないんじゃないかと考えるようになりました。このあたりのことを少し整理してみたいと思います。

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Appendix

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